「子どもの教育費って、実際いくらかかるんだろう?」
——ある日、友人からこう聞かれてドキッとした経験はありませんか?
住宅ローンや日々の生活費に目が行きがちですが、教育費は人生の三大支出(住宅・教育・老後)のひとつ。
しかも“いつ・いくら必要になるか”がある程度決まっている出費です。
漠然とした不安を抱えるよりも、数字で見える化してみると対策が取りやすくなります。
親として「なんとかなるでしょ」と放置するよりも、具体的に把握するだけで安心感はぐっと増します。
教育費の全体像をざっくり把握しよう
文部科学省の「子供の学習費調査」によれば、幼稚園から大学までオール公立なら約1,000万円、すべて私立なら2,000万円を超えるとも言われています。(文部科学省:「令和5年度子供の学習費調査」)

ざっくり倍額違うのです。
しかも、これは授業料や入学金といった“学校に払うお金”だけの話。
実際には、教材費や制服代、通学定期代、さらには学校行事の費用など、見えにくい出費が積み重なっていきます。
公立に進むか、どのタイミングで私立を選ぶかによって、家計へのインパクトは大きく変わります。



「進路選び=教育費の変動」といっても過言ではないのです。
架空の家庭でシミュレーションしてみる
ここで、Aさん一家(夫婦と小学生の子ども2人、合計4人家族)をモデルケースに進学ルートごとの教育費をシミュレーションしてみましょう。
長男は現在小学2年生、次男は幼稚園年長という設定です。
- すべて公立ルート:長男・次男ともに幼稚園から大学まで公立を選んだ場合、1人あたり約1,000万円、2人分で合計約2,000万円前後となります。授業料は比較的抑えられますが、部活動や塾代などの追加費用は考慮が必要です。
- 長男が中学から私立、次男は公立進学:長男が中学から私立に進学すると制服や寄付金などの費用も加わり、次男は公立進学でも、全体では合計で約2,500〜2,800万円が必要になります。兄弟で進学時期が重なると、一度にまとまった入学金や授業料を支払う必要があり、家計に大きな負担がかかります。
- 長男が大学私立理系、次男が私立文系:高校まで公立で抑えていても、大学で理系・文系の私立を選ぶと一気に費用が膨らみます。長男の理系学部は実験や施設利用料がかさみ、次男の私立文系も4年間の学費が高額です。2人合わせると合計3,000万円超も視野に入り、教育費のピークが訪れる時期には資金繰りが極めて重要になります。
以下の表に進学パターンごとの教育費を整理しました。視覚的に比較することで、どのタイミングで費用が増えるかが一目でわかります。
進学パターン | 長男 | 次男 | 合計費用の目安 |
---|---|---|---|
すべて公立ルート | 幼稚園〜大学まで公立(約1,000万円) | 幼稚園〜大学まで公立(約1,000万円) | 約2,000万円前後 |
長男が中学から私立、次男は公立進学 | 中学から私立〜大学(約1,500〜1,800万円) | 幼稚園〜大学まで公立(約1,000万円) | 約2,500〜2,800万円 |
長男が大学私立理系、次男が私立文系 | 高校まで公立+大学私立理系(約1,600〜1,800万円) | 高校まで公立+大学私立文系(約1,200〜1,400万円) | 合計3,000万円超も視野に入る |
数字を整理してみると「どこで教育費が膨らむのか」が具体的に見えてきます。
教育費のピークはいつ来るのか?
教育費は一様にかかるのではなく、時期によって山と谷があります。
幼稚園や小学校のうちは比較的少額ですが、中学・高校・大学と進むにつれて一気に増加します。
特に大学進学時は「入学金+前期授業料+新生活費用」が重なり、家庭にとって最大のピークとなるケースが多いのです。
兄弟がいる場合は進学時期が重なりやすく、一度に数百万円単位で資金が必要になることもあります。
イメージとしては、小学校までは低い山、中学・高校でなだらかに上り、大学進学時に大きな頂点を迎える折れ線グラフのような形を描くのです。
この“ピーク時”を意識して準備しておくことが、教育費シミュレーションで最も大切なポイントといえるでしょう。
思わず「うわぁ…」とため息が出る金額ですが、現実を知ることが第一歩です。
子どもが小さいうちは“まだ先のこと”と感じても、高校受験や大学受験の年齢になると、あっという間に「まとまったお金」が必要になります。
このギャップが、保護者の大きなプレッシャーにつながるのです。
見落としがちな“プラスα”の出費
授業料や入学金だけでなく、実際には“ちょこちょこ”出ていくお金も多いのが教育費の特徴です。
- ピアノやスイミングなどの習い事費用
- 中学受験や大学受験に向けた塾代、模試代
- 制服、部活動の合宿費や遠征費
- 通学定期代や昼食代
こうした出費を合計すると、数十万円単位で追加されていきます。
「授業料だけ見積もっていたら実際はもっとかかった」という声はとても多いのです。
特に中学受験の塾代は年間100万円を超えるケースも珍しくなく、教育費の“大きな落とし穴”といえます。
さらに、高校や大学の部活動も、強豪校であれば遠征や合宿費が年間数十万円単位に膨らむこともあります。
教育費の全体像を把握するときには、必ずこうした“生活密着型の支出”も加味する必要があるのです。
教育費は“先取り”で準備するのが安心
教育費は「ある日ドーンと必要になる」性質の支出です。
だからこそ、コツコツと積立で準備しておくのが安心につながります。
- 学資保険:確実に積み立てたい人に向く。将来の受け取り額が決まっているので安心感がある。
- NISA(積立の投資信託):時間を味方にして資産を増やす方法。10年以上の長期視点で、インフレにも対応できる。
- 定期預金:流動性を重視したい人に。安全性は高いが、増える期待は小さい。
FPとしての経験から言えば「安全資産と運用資産をバランスよく組み合わせる」ことがポイントです。
全部を投資に回すのはリスクが高いですが、全部を貯金だけにするのも効率が悪い。
例えば「毎月1万円を学資保険」「毎月5,000円を積立NISA」といったように分けると安心感も増します。
教育費の準備は“生活費の余りでなんとなく貯める”のではなく、“先取り”で積み立てる仕組みを作ることが大切です。
こうすることで、「教育費が必要になる時期」に焦らず対応できるのです。



積み立て投資を始めるならこの記事がおすすめです。


教育費の準備を始めるベストタイミング
教育費は“必要になる時期が予めわかっている”という特徴があります。
したがって、準備は早ければ早いほど有利です。
理想は子どもが生まれた時点、遅くとも幼稚園や小学校に入る前には積立を開始するのが安心です。
早く始めるほど時間を味方につけることができ、毎月の負担も軽く抑えられます。
例えば大学進学まで18年ある場合、毎月1万円の積立でも約200万円以上を準備できます。
これを10年に短縮すると同じ金額を積み立てるのに月2万円が必要になる計算です。
つまり、時間を活用することで“無理のない準備”が可能になるのです。
さらに、早い段階から積立NISAや学資保険などを組み合わせて計画的に備えると、将来の資金不足に慌てずに済みます。
教育費は待ってくれません。
だからこそ「思い立ったらすぐ始める」ことが、家計にとって最も有効な戦略です。
教育費に関するよくある誤解
多くの家庭では「公立ならほとんどお金がかからない」「奨学金を借りればなんとかなる」という思い込みを持ちがちです。
しかし実際には、公立でも塾や部活動などで相当の出費が必要ですし、奨学金は“借金”であり、卒業後に返済の負担が待っています。
誤解のまま準備を怠ると、大学進学時に慌てることになります。
教育費は“かからない”ものではなく、“必ずかかる”ものと捉えて早めに計画を立てることが重要です。
奨学金・教育ローンの活用方法
教育費が不足する場合、奨学金や教育ローンを活用するのも一つの方法です。
日本学生支援機構(JASSO)の奨学金には、返済が必要な貸与型と、返済不要の給付型があります。
また銀行や公的機関の教育ローンを利用する家庭もあります。
ただし、奨学金やローンはあくまで“借りるお金”であるため、将来の返済負担を考慮して慎重に利用する必要があります。
利用する際は、必要額を最小限に抑え、返済計画を立てることが大切です。
教育費とライフプランのバランス
教育費にばかり資金を集中すると、老後資金が不足するリスクがあります。
親としては子どものために最善を尽くしたいと思うものですが、自分たちの生活や老後資金も無視できません。
教育費はライフプラン全体の一部であり、住宅ローンや老後資金とのバランスをとることが重要です。
FPの視点からは「教育費・老後資金・生活費」を三本柱として考え、それぞれを無理のない範囲で積み立てることを推奨します。
家計全体を俯瞰し、優先順位を整理することで、安心して教育費に備えることができます。
Q&A:奨学金や教育ローンに関するよくある疑問
ここからは奨学金や教育ローンに関するよくある疑問について解説していきます。
- 奨学金は誰でも借りられるの?
-
奨学金には「貸与型」と「給付型」があり、日本学生支援機構(JASSO)の制度は世帯収入や学力基準によって利用の可否が決まります。
誰でも無条件に借りられるわけではなく、申請時期や条件を満たしているかが重要です。
利用を検討するなら、高校在学中から情報収集を始めるのが安心です。
- 奨学金の返済はどのくらい大変?
-
貸与型奨学金の場合、卒業後に毎月返済が始まります。
一般的には月数千円から数万円を15年〜20年ほどかけて返していきます。
就職後の給与から自動引き落としになるため、計画的に利用しなければ家計の大きな負担になりかねません。
返済額は借入総額と利率によって変わるため、シミュレーションを事前に行うことが大切です。
- 教育ローンと奨学金の違いは?
-
奨学金は学生本人が契約者となり、返済義務を負います。
一方で教育ローンは親が契約者となる点が大きな違いです。
教育ローンは入学金や授業料の支払い時にまとまった資金を準備できるメリットがありますが、金利負担も発生します。
家庭の収入や支出のバランスを考え、どちらを選ぶかを判断しましょう。
- 奨学金や教育ローンは併用できる?
-
可能です。
例えば入学金や初年度納付金を教育ローンでまかない、在学中の生活費や学費を奨学金で補うケースがあります。
ただし借入額が膨らみすぎないよう注意が必要です。
併用する場合は総額の上限を決め、返済計画を現実的に立てることが欠かせません。
まとめ|教育費を“見える化”して、今日から準備を始めよう
教育費は、漠然とした不安のままでは「なんとなく心配」で終わってしまいます。
しかし、数字でシミュレーションすれば、必要な金額や時期がはっきり見え、対策がぐっと取りやすくなります。
今回のシミュレーションからもわかるように、公立か私立か、文系か理系かで数百万円〜数千万円単位の差が生まれます。
そして教育費の最大のピークは大学進学時。
兄弟がいれば、同時進学で一気に数百万円の資金が必要になることもあります。
だからこそ「教育費は後回しにしない」ことが最も大切です。
未来の教育費は、待ってはくれません。
思い立った今こそ、小さな一歩を踏み出すチャンスです。
「数字を知り、今から準備する」——それが子どもの可能性を守り、親自身の安心にもつながるのです。